さわやか“6月の花嫁” 手握りしめ送る父 「行って参ります」と紀子さん微笑 ◆後輩が祝福の花束…

 「行って参ります。ありがとう存じました」。旅立ちの朝、花嫁は言った。住みなれた3LDKを後に、いつもの笑顔で皇居へと向かう娘の姿に、母は涙をこらえ、父は手を振った。29日、平安絵巻そのままに行われた礼宮さま(24)紀子さま(23)の「結婚の儀」。キャンパスの出会いから5年を経て、お2人が「秋篠宮ご夫妻」になられたこの日、十二単(じゅうにひとえ)をまとったジューン・ブライドは、喜びを包みきれぬように輝いていた。

 前夜11時すぎにやすんだ紀子さまは、この朝4時にはもう目を覚ました。コチョウランやユリの花を飾ったテーブルで、パン、紅茶、果物の朝食。お迎えの手塚英臣侍従は、6時25分、川嶋家に到着した。

 「感謝しつつ、この日の朝を厳粛な気持ちで迎えました」と、嫁ぐ日の心境を家族に託した紀子さま。父、川嶋辰彦さん(50)、母和代さん(48)、弟舟君(16)が「お元気で行ってらっしゃいませ」と、口々にはなむけの言葉を贈ると、「行って参ります。ありがとう存じました」と短く答えた。

 淡いピンクのワンピース、同色の帽子に、真珠のネックレスとイヤリング。学習院共同住宅4階の自宅から狭い階段をゆっくりと下りる紀子さまの後ろに、舟君、そして両親が続いた。紀子さまは緊張のためか、伏し目がちで固い表情に見えた。しかし、住宅の前で、同じアパートに住む学習院女子中等科1年、箱崎貴子さん(12)が、カーネーションなどの花束を手に走り寄ると、いつものスマイルが顔いっぱいに広がった。「おめでとうございます。末長くお幸せに」。後輩の祝福に紀子さまは「ありがとう……」

 天皇陛下差し回しの「センチュリー」が横づけされる。家族が1列に並んだ。「お元気で」と笑いかける弟、そして母、父。舟君は、未成年のため「結婚の儀」に参列できない。紀子さまは1人ひとりに、短く別れを告げた。和代さんには「お世話になりました」とでもいうように頭を下げた。和代さんは何事か語りかけて、うつむき、唇をかんだ。辰彦さんは、紀子さまの持っていたバッグを取り、右の手で娘の手を固く握った。

 ドアが閉まり、パトカーの先導で車は静かに走り出した。モーニング姿の辰彦さんは右手を高く上げた。万感の思いが胸に迫るのか。車列が門の外に消えるまで、円を描くように振り続けた。

 ◆礼宮さまとお幸せに 会見で両親

 結婚の儀の後、川嶋辰彦、和代さん夫妻は賢所近くの特設テント内で記者会見、娘の晴れ姿を見届けた親の心境を語った。

 −−結婚の儀が終わられて、どのような気持ちかお聞かせ下さい。

 辰彦さん 静かな水面に映える虹(にじ)の七色にも似たひとつのおごそかさと、それに重なるような美しさに心の静かな動きと漂いを覚えたような気持ちです。

 和代さん 無事に今日の日を迎えられたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

 −−お2人にどのような家庭を望まれますか。

 辰彦さん 天皇、皇后両陛下をおうやまい申し上げ、礼宮さまとお幸せに、と祈りたく存じます。

 和代さん 私も夫と同じ考えでおります。

(1990年6月29日  読売新聞)

引用元 http://www.yomiuri.co.jp/feature/impr/0609article/fe_im_90062903.htm



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