納采の朝 紀子さん、ほお染め「お受けします」 目録ささげ深々一礼

 ◆振りそで姿も初々しく

 婚約のあかしを伝える天皇陛下の使者が、12日午前、東京・目白の3LDKのアパートを訪れた。4年余の“キャンパスの恋”を実らせた礼宮さま(24)と川嶋紀子さん(23)の「納采の儀」。「謹んでお受け申し上げます」。ピンク色の振りそで姿の紀子さんは、初々しく、美しかった。この朝、プリンセスとなる責任に「(身の)引き締まる気持ち」という感想も。一般の結納に当たる儀式は、31年前の天皇、皇后両陛下の時と同じように、短く簡素なものだったが、皇室にとってお祝いの行事が続く平成2年の初頭にふさわしく、若いロイヤルカップルは喜びに満ちあふれていた。

 ◆3LDKの自宅アパートで

 納采の儀は午前11時10分から。約70平方メートルの3LDKの玄関を入ってすぐの、8畳ほどのダイニングルームが、この日のために模様がえされた。金屏風(びょうぶ)の前の台に、納采の品として事前に届けられたタイと、金銀の水引きを結んだ箱入りの清酒、洋服用絹地が飾られ、玄関を背に、父辰彦さん(49)、母和代さん(47)と、ピンクの振りそで姿の紀子さんが並んだ。髪をアップに結い、手には扇子。振りそでの柄は彩波錦(さいはにしき)、帯は華紋のある唐織(からおり)。先例に従い、履物のままだ。ノーネクタイがトレードマークの辰彦さんもこの日はモーニングに威儀を正し、もえぎの色留めそで姿の和代さんともどもさすがに緊張した表情。準備が整うと、重田保夫侍従次長が部屋に入り、小テーブルをはさんで川嶋家側と向かい合った。

 「文仁親王には、本日、川嶋紀子嬢に結婚の約をなすため納采を行われます」。互いに深々と一礼のあと、侍従次長の張りのある声が響く。固有名詞を除けば、31年前、鈴木菊男東宮大夫(当時)が美智子さま(皇后)を前に読み上げたと同じ伝統の口上。紀子さんはほおを染め、「謹んでお受け申し上げます」と答えた。小さいが、さわやかな声。

 続いて、紀子さんが一歩進み出て、三方にのった納采の品の目録が重田侍従次長から紀子さんの手へ。紀子さんはささげ持つように受け取り、納采の品の前の台に目録を置いた。

 タイ、清酒、絹地という納采の品はどの皇族の“結納”でも同じだが、絹地は皇太子だと5巻なのに対し、今回は常陸宮さまの時と同じように3巻。薄紅、白、もえぎの三種で、京都で特別にあつらえた品だ。重田侍従次長がそれらをひとつずつ披露した。

 儀式のあと、礼宮さまは「本日、正式に婚約が調ったことについて、まず、天皇、皇后両陛下にお礼の気持ちをお伝えしたいと思います。また、吹上御所で皇太后陛下にごあいさつを申し上げ、昭和天皇の御影(みえい)にご報告申し上げます。今回の事につき尽力して下さった方々に感謝しております」との感想を明らかにされた。紀子さんは「天皇、皇后両陛下のお教え、ならびに礼宮さまはじめ皇族の方々のお導きをたまわりながら、自らの責務に向けて一層つとめて参りたいと存じます。皆さま方に感謝申し上げます」と宮内庁を通じて感想を述べた。

 川嶋家にはこの朝9時37分、納采の品々を積んだ宮内庁のワゴン車が到着。紀子さんは「引き締まる気持ちですが、すがしい朝を迎えました」という。

 重田侍従次長は午前11時5分、川嶋家に着いた。儀式が始まるまで侍従次長が待機する控の間は、紀子さんの部屋。桜湯をふるまわれた侍従次長が「雨が上がって良いお日和になりましたね」と切り出すと、父辰彦さんが「本当によろしいことでございますね」と応じた。

 ◆紀子スマイルで皇居へ出発

 皇居に向かうため、午後零時55分、4階にある自宅を出て姿を見せた紀子さんは、階段の踊り場でいつもの“紀子スマイル”を見せた。1階に降り立った紀子さんと、辰彦さん、和代さん、舟さんの一家4人は、しばし立ち止まり、報道陣に軽く会釈。紀子さんはわずかにほほえみを見せたが、やや緊張気味。右手にシルクハットと手袋、モーニングという正装の辰彦さんも、トレードマークの長いもみあげをさっぱりとそり落とし、和代さんと共に緊張した面持ちだった。

 この後、紀子さんは両親にはさまれるようにして宮内庁差し回しの車へ。後部座席のドアから辰彦さんに続いて乗り込んだ紀子さんは、振りそでのそで口を気づかい、ゆっくりと体を座席へ。車が走り出すと、紀子さんは左側に並ぶ報道陣に、2度ほど、会釈した。

 一方、モーニング姿の礼宮さまは午後1時10分過ぎ、赤坂御所玄関で見送りに出た皇太子さまとにこやかに言葉を交わし、一礼して車に。やや緊張気味ながら、落ち着いた様子で、皇居に向かわれた。

(1990年1月12日  読売新聞)

引用元 http://www.yomiuri.co.jp/feature/impr/0609article/fe_im_90011202.htm



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